「閑叔白文・折節のエッセー」巻2

  斯くして、二泊三日の「春節の旅」は終わった。駐在する公司の日本人寮に帰って来た。早速、三日ぶりの風呂に入った。中国人は余り風呂に入らない様である。お湯で身体を拭くだけである。田舎では一冬中入らない事もあるという。そう言えば、霞女史は話していた。"私は一生の間に三度しか風呂に入らない。生まれた時と結婚した時、後は死ぬ時。”勿論、冗談であろうが、昔はそうであったかも知れない。公司一の美人、湖北の西施も随分と薄ら汚れたものである。
  暖かい中国人の心に触れる事が出来た旅であった。霞女史のお陰で有意義な春節を過ごす事が出来た。日本人の誰もが経験することが出来ない、素晴らしい想い出を作る事が出来た。従来、抱いていた "中国に対する憧れや思い入れは多分に、独り善がりに過ぎなかったのでは無いか?”と思う。もっと、もっと深い、温かいものを得る事が出来た旅であった。
  "帰省に同行したら・・・。”と誘って呉れた霞女史。見ず知らずの外国人を妹の友人というだけで二泊もさせて呉れた霞女史のお姉さん夫婦と言葉の壁に囚われずに遊んで呉れた子供達。バスの中で日中政治問題討論会を開催?して呉れたバスの車掌。田舎のお婆さんやお爺さん達との人間的な会話等々。益々、中国が好きになってしまった。

  "国の交わりや友好は何も難しい事で無い。互いに人間として相手を認め、心を開いて話し合う。此の簡単な事が基本なんだ。ご近所と付き合う様に付き合えば好いんだ。”と思いながら、暖かい湯に浸って、思いっきり手と足を伸ばして欠伸を一つした。   

                                                       ー完ー

エッセー「十里桃花万家酒」巻二
   ー中国春節紀行ー(田舎の村で)

  因みに、此の先祖代々のお墓のある農村が霞女史とお姉さんが育った故郷で、霞女史のお父さんは何年か前に一家を挙げて鉄山に移り住んで今に至る。我々が泊めて頂いている姉さんのお宅は、此の地で商売をされているご主人が、代々伝わる土地に居を構えられた新居である。
  ご先祖様のお墓参りは此又、賑やかなものである。一片が三十メートル位の小山が一家の墓陵である。勿論、土葬であろう。ご先祖様が全員此処に眠っている。枯れ草で覆われている。其処に火をつけた紙銭をばらまく。"枯れ草に燃え移らないんだろうか?”まあご先祖様が守っているから好いのか。と考えていると突然、パチパチパチ・・・。枯れ木に架けた爆竹が鳴り出した。ご先祖様もさぞかし、驚かれた事であろう。
  表通りに戻ると沢山の人が集まっていて、霞女史達に話しかけている。何をしゃべっているのか判らない。"久ぶりだね。何処で働いているの?”とでも話しているんだろう。と思っていると私にも話しかけて来る。霞女史のおぼつかない通訳を頼りに三十分位、会話が弾む。お婆さん達が前掛けの中に何かを隠し持っている。 "それ、何ですか?”見ると熾った炭の入った小さな火鉢を抱きかかえている。"私にも当たらせて下さい。中国は寒いねえ。” "日本はこんなに寒くないですか?” "女房から四月の陽気だ、という便りを貰いましたよ。” "いいねえ。お金持ちの国は暖かいのかねえ。” "そんな事はありませんよ!” "暖かさはお金では買えませんよね。”・・・・。此のお婆さん達には言葉の障壁も国境も存在しない。平気で話しかけ、心から笑う。隣人の様に私に接してくれる。此処には中国人も日本人も存在しない。居たのは同じ世界に住んでいる同じ人間であった。

  此の項でエッセー「十里桃花万家酒」(旧「紅梅薫る旅」)ー中国春節紀行ーは完了致しました。次号からは新たなエッセーを掲載致します。楽しみにお待ち下さい。
  尚、此のエッセー「十里桃花万家酒」(旧題「紅梅薫る旅」)ー中国春節紀行ー全文をご希望の方は掲示板にメールアドレスをお書きの上、お申し出下さい。メールに貼り付けてお送り致します。

表紙「閑叔白文の”孔明夜咄」書屋
へようこそ!」
のページに戻る。

「長江滔々」
客人相聚春満堂 風和日麗享安閑
長江悠々東去遙 流水何時到故郷
              白文